柚月裕子著 「慈雨」・「あしたの君へ」
今日は二冊同時にご紹介です。
二冊とも、最近私が注目している作家さんの一人、柚月裕子さんの作品です。
まずは「慈雨」。
警察官を定年退職した男が、妻とともに四国遍路の旅に出ます。
旅の最中彼が知ることとなるある少女誘拐事件は、彼がかつて担当した事件に酷似していました。
進まない捜査に頭を悩ます後輩警官に、旅を続けながら助言をする彼には、
そもそもその四国遍路に出る理由がありました。
ミステリーというジャンルに留めるには本当に勿体ない人間ドラマが、まるで男性作家のような文体で
綴られます。(読後、あ、これ女の人が書いたんだっけ!?ってなりました)
少女誘拐事件の犯人は一体誰なのか。主人公がかつて関わっていた事件との関係性はあるのか。
そして、主人公は何を胸に秘め、なぜ四国遍路の旅に出たのか。
組織の人間として「正しい」ことと、一人の人間として「正しい」こととは時として異なります。
元警察官が主人公という時点で、なんとなくその意味が分かってしまうかもしれませんが(笑)
それでも、警察官の不祥事とかよく耳にするけど、やっぱり警察官も血の通った人間で、
殆どの警察官が心から事件を解決したいと思っている、と改めて思わせてくれる小説です。
旅をともにする主人公の妻もいい!
そして「あしたの君へ」。
家庭裁判所調査官に採用された新人調査官を中心に、そこで扱う案件が短編で綴られます。
盗みを犯した少女、ストーカー事件を起こした少年、一見とても仲の良い夫婦、親権を争う父と母に惑わされる小学生…
なぜこんなことになったのか、調査対象者はなかなか心を開かない中、新人の彼は先輩調査官たちに
励まされながらもなんとかその真相に迫ろうとします。
それぞれの案件の奥深さと、新人調査官の成長が、こちらは女性らしい優しい眼差しをもって進みます。
犯罪を起こすことは決して許されることではありません。それは当然のこと。
でも、じゃあもし自分が同じ境遇に立っていたら、本当に自分は同じことを犯さない自信があるのか…
そう考えさせられる事件は、この現実の世界でもよく目にします。
罪は償わなくてはいけない、でも、なんで自分がこんなことを犯してしまったのか、その話を
聞いてくれる人がいるとしたら…同じ罪を償うでも、何か違うかもしれない…
こちらは中学生くらいから読めるんじゃないかと思います。
内容はちょっとベタかもしれない、でも、決して読んで損はしない。
「罪を憎んで人を憎まず」ではありませんが、世の中で起こる犯罪を、また違う側面から考えてみようと
思わせる作品です。
ある方が言っていました。
「柚月裕子には正義が似合う」
この言葉につきます。
時として「正義」ほど危ういものはありませんが、それでも、やっぱり、「正義」はいい。